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「すべての人々に、ロボット革命の恩恵を授ける」―Telexistenceが描く社会実装の最前線

「すべての人々に、ロボット革命の恩恵を授ける」―Telexistenceが描く社会実装の最前線

画像左から:

株式会社メイテックネクスト 執行役員フェロー:新美優子(にいみ ゆうこ)

株式会社メイテックネクスト 執行役員フェロー:山田英二(やまだ えいじ)

Telexistence株式会社 Co-Founder&取締役CTO 佐野元紀(さの げんき)氏

Telexistence株式会社 Head of Hardware Engineering 鈴木真崇(すずき まさたか)氏



Telexistence社は、遠隔操作技術とAIを融合させたロボットの開発を通じて、小売・物流業界に革新をもたらしているスタートアップです。「すべての人々に、ロボット革命の恩恵を授ける」というミッションのもと、人やAIがロボットを操作することで、離れた場所から身体的な作業を行える世界を目指しています。


今回、同社の最高技術責任者(CTO)であり、VRやロボティクス分野で豊富な経験を持つ佐野元紀氏と、産業・医療用ロボットの開発経験を活かし、現在はハードウェアマネジメントの中核を担う鈴木真崇氏にインタビューを実施。創業の経緯や事業領域の選定理由、今後の展望、さらには求める人材像に至るまで、多角的な視点から同社の魅力と可能性についてお話を伺いました。


遠隔操作技術とAIによる自動化を段階的に組み合わせることで、「今できる技術」を社会に実装しながら未来を切り拓く。そのような実践を通じて見えてきた、Telexistence社ならではの価値と挑戦に迫ります。

 

インタビュイー:

Telexistence株式会社 Co-Founder&取締役CTO 佐野元紀(さの げんき)氏

Telexistence株式会社 Head of Hardware Engineering 鈴木真崇(すずき まさたか)氏

構想から社会実装へ。「いまならできる」が背中を押した創業の決断

構想から社会実装へ。「いまならできる」が背中を押した創業の決断

――Telexistence創業の背景について教えてください。

 

佐野氏:当社は、「遠隔に存在できるロボット」というコンセプトを軸に創業しました。その原点となったのは、東京大学や慶應義塾大学で長年にわたりテレイグジスタンス技術やロボティクスの研究を行っていた、舘暲(たち・すすむ)先生の研究成果です。舘先生は、早い段階から「テレイグジスタンス(telexistence)」という概念に注目し、その可能性を探究されていました。

 

当時は、研究としては先進的でも、社会実装に必要な通信インフラやデバイス環境が整っておらず、実用化にはまだ距離がありました。しかし、5Gをはじめとする高速通信インフラの発展やVR技術の一般化を好機と捉え、「今なら社会実装が可能だ」と判断し、創業に至ったのです。

 

――佐野さんご自身が参画された経緯についても教えてください。

 

佐野氏:私はもともとVRの研究開発業務に従事していました。その中でも特に惹かれたのが、「ロボットを介して自分が遠隔地に“存在”できる」というコンセプトでした。

 

中でも興味を持ったのは、人がロボットを遠隔操作する中で得られる操作データを、機械学習に活用できるという点です。

このようなデータをもとに、将来的にはロボットがより高度な動作を自律的に行えるようになる。


まずは遠隔操作という形でロボットを社会に導入し、そこで蓄積された知見やデータを活かして、最終的にはより良い社会の実現に貢献する――そのような構想に深く共感し、参画を決意しました。

インフラとしての小売業へ。“日常の中”から社会実装を進める戦略

インフラとしての小売業へ。“日常の中”から社会実装を進める戦略

――御社はまず小売業界、特にコンビニ向けにロボットを展開されていますが、その理由を教えてください。

佐野氏:

 当社は、「すべての惑星上のすべての人々に、ロボット革命の恩恵を授ける」ことをミッションに掲げています。その実現のためには、できるだけ多くの人が関わる業界を対象とすべきだと考えました。

小売業は就業者数も利用者数も非常に多く、日常生活を支えるインフラとしての役割も大きい領域です。

市場規模や導入可能数の観点から見ても、最も社会的インパクトの大きい分野であると判断し、まずはこの領域に注力することにしました。


――なぜ飲料陳列に特化されたのでしょうか?

佐野氏:

当初は、コンビニの陳列業務全体をカバーできるロボットの開発を目指していました。

しかし、コンビニは365日24時間営業で、かつ高いサービス品質が求められるため、非常に厳しい要件が課されます。

当時の技術水準では、すべての商品に対応するのには長い研究期間を要すると判断しました。


そこで、まずは比較的取り扱いやすく、作業が定型的な「飲料の陳列」にターゲットを絞り、技術的に安定した運用を可能とするロボットの開発を進めました。その結果誕生したのが、現在の飲料特化型ロボット「TX SCARA」です。

――物流業界への展開も積極的に進められていますね。


佐野氏:

物流も小売業と同様に、社会を支える重要なインフラであり、ロボット導入の余地が非常に大きい分野です。

確かに競合も多い業界ですが、それを上回る導入可能台数や市場規模の大きさに魅力を感じています。


当社の強みは、ロボットを単体で販売するのではなく、包括的なソリューションとして提供している点にあります。

ハードウェアの設計・製造から制御ソフトウェアの開発、現場でのオペレーション支援まで、一気通貫でサービスを展開しています。


導入後も、遠隔操作による支援体制を整えており、「納品して終わり」ではなく、継続的なサポートを通じて現場の運用を支え続けている点も、大きな差別化要素だと考えています。

――AIと遠隔操作のハイブリッド運用という技術戦略について教えてください。


佐野氏:

当社では、完全なAIが完成してから市場投入するのではなく、遠隔操作とのハイブリッドによって、できるだけ早期に社会実装を進めるという戦略を採っています。

完全自動化の実現には膨大な時間とリソースが必要ですが、遠隔操作と組み合わせることで、早い段階から安定したサービスの提供が可能になります。

 

現時点で、ロボットによる作業の大部分は自動化できています。残りの一部作業を遠隔操作で対応することで、顧客に不便をかけることなく運用を継続しています。


そして、遠隔操作によって蓄積されたデータをAIに学習させることで、自動化の範囲を段階的に拡大しており、運用の中でロボット自体が進化していく構造を実現しています。


――まさに「現実的な社会実装」を志向された設計ですね。

佐野氏:

はい、スタートアップにとって最も重要なのはスピードです。

最初から完璧なプロダクトを出そうとすると、何年もかかってしまい、それでは社会に価値を提供するタイミングを逃してしまいます。

だからこそ、あえて完全自動化を待たず、できるだけ早くサービスを提供することにこだわりました。

こうすることで、お客様に迷惑をかけることなく先に市場へ投入でき、導入後は現場でロボットを運用し、実際のデータを学習させ、より賢く「育てながら」使ってていく。これが当社の現実的なアプローチです。

――今後の展望について、どのようにお考えですか?

佐野氏:

まずは、現在すでに立ち上がっている事業を、よりスケールさせていくことが直近の目標です。

小売業、特にコンビニエンスストア向けの事業は、物流に比べて一歩先に進んでいるため、今後は導入店舗数を着実に増やしていくことに注力していきます。


国内での展開を軸としながら、将来的にはグローバル展開も視野に入れており、各地域の業態や特性に合わせたロボットシステムの開発も今後検討していく予定です。

また、我々は小売特化というより「ロボットサービス特化」企業なので、今後は事業の柱を増やしていく必要があります。


その中で、もう一つの柱である物流事業については、今後さらに強化していきたいと考えています。

現時点ではまだ小売よりもスケールの手前にあるフェーズなので、物流専用ロボットの内製化を進め、顧客のニーズに特化した製品を提供できる体制を構築中です。


――技術戦略としてのAIと遠隔操作のハイブリッド運用は、今後どのように進化していくとお考えですか?

佐野氏:

将来的なビジョンとしては、遠隔操作とAIによる自動化の組み合わせを、さらに進化させていくことを目指しています。

現在、ロボット作業の大部分は自動化されていますが、残りの部分を遠隔操作で補完しながら、その操作データをAIに学習させることで、より高度な自律的作業を可能にしていきます。

たとえば、オペレーターが難しい操作を1度行えば、その動きをAIが学習し、次回以降は自動で実行できるようにしていきます。


これによって、ロボットができる作業の範囲が広がり、将来的には1人のオペレーターが複数のロボットを効率的に管理できる体制を構築することが可能になります。

こうした仕組みを繰り返すことで、ロボットの高知能化が加速し、さらに多様な現場で活用されるようになると考えています。


この技術が進化すれば、これまで導入が難しかった業務領域への展開も視野に入ってきます。

現在は主に飲料陳列に特化していますが、たとえばコンビニ内の他の棚への展開、あるいはおにぎりなど潰れやすい商品の陳列といった、より繊細な作業にも対応できるようになる可能性があります。

「不確実さ」にチャレンジできるか──Telexistenceが求める人材像とは

「不確実さ」にチャレンジできるか──Telexistenceが求める人材像とは

――御社ではさまざまな国籍の方が働いていると伺いました。


佐野氏:

現在、全社員のうち約半数以上が外国籍の方です。

国籍の数で言うと、約20か国に及びます。日本は長年にわたりロボット技術で評価されてきたという背景と、その中で我々が「遠隔操作×自動制御」でロボットを事業化している唯一の企業であることに、魅力を感じて来てくれる方が多いですね。

さまざまな文化的背景を持つメンバーが在籍しており、それぞれが異なる視点から意見を出し合うことで、非常に活発な議論が生まれています。


――どのような人物像を求めていますか?


佐野氏:

一言で言えば、「不確実な状況に対して前向きにチャレンジできる人」です。

私たちはスタートアップとして、新しい技術やサービスを形にすることに挑んでいますが、その過程では、分からないことや正解のない課題に直面することが多くあります。そうした状況を楽しみながら、自ら道を切り開いていける方に仲間として加わっていただきたいです。

鈴木氏:

入社してから感じたのは、本当に多様なバックグラウンドを持った方が活躍しているということです。

国籍だけでなく、業界や職種、考え方もさまざまで、「正解」がない中で、小さなゼロイチを積み重ねていく日々です。


私自身、前職では大企業に所属していたこともありますが、Telexistenceではお手本がない環境で、自分たちでルールをつくっていくという面白さがあります。


――貴社のミッションを達成するガイドラインとして独自の「TXの5つの原則」を設けられているそうですね。この「TX原則」には、どのような考え方が込められているのでしょうか?


佐野氏:

TX原則にはいくつかの軸がありますが、代表的なものとして「自由と責任」が挙げられます。

たとえば、設定したゴールを達成さえできれば、極端な話、年に1日しか出社しなくてもよいというレベルの自由があります。


その一方で、自分の成果に対しては強い責任が求められます。

この自由と責任のバランスに魅力を感じる方であれば、非常にフィットするカルチャーだと思います。


反対に、ある程度決められたルールの中で安心して働きたいという方にとっては、自由度の高さがかえってストレスになる可能性もあるかもしれません。そうした意味でも、自発的に動ける方、自己判断で行動できる方が合っている環境だと思います。

AI時代だからこそ、“ものづくり”が未来を動かす―エンジニアへのメッセージ

AI時代だからこそ、“ものづくり”が未来を動かす―エンジニアへのメッセージ

――実際に入社されてから感じた変化や気づきはありますか?


鈴木氏:

私はこれまで産業用や医療用ロボットの開発に携わってきましたが、Telexistenceでの取り組みは、ある意味で世界初のチャレンジばかりです。

スタートアップ特有のスピード感や、マネジメントを任される立場としての責任の大きさも含めて、これまでとは全く異なる刺激があります。


転職のお誘いを受けた当初は、会社名も聞いたことがあるかないかというレベルで、正直それほど温度感が高かったわけではありません。でも実際にオフィスを訪れ、ロボットが並ぶ開発現場の熱気を肌で感じたときに、「ここでなら自分も大きな挑戦ができる」と思い、入社を決意しました。

――国籍を問わずさまざまなメンバーと働く中で、どのような点が印象的ですか?


鈴木氏:

英語の問題よりも、人それぞれの価値観や文化的背景の違いのほうが大きな要素だと感じます。

それでも、ロボット開発という共通の目標に向かって一緒に動く中で、立場や考え方を超えて連携する楽しさがあります。


共通しているのは、皆が“何か新しいことに挑戦したい”という思いを持っていることです。

そうした環境の中で、自分自身もエンジニアとして、そしてマネージャーとして成長できていると感じています。

変化を楽しめる方、挑戦に価値を感じる方には、間違いなく向いている会社だと思います。


――ものづくり系スタートアップに関心のあるエンジニアにとっての魅力はどのようなところでしょうか?また、そうした方々へメッセージがあればお願いします。

 

佐野氏:

今、生成AIなどソフトウェア分野が非常に注目されていますが、人が物理的な存在である以上、フィジカルな領域での介入は必ず必要です。たとえ無人店舗のような仕組みが進んでも、物理的に商品を補充したり支えたりする仕組みは求められます。


そういった意味で、どれだけAIが進化しても、最終的にはハードウェアやものづくりが不可欠な領域になると考えています。

物理世界とソフトウェアの融合が求められる今こそ、ものづくりに強みを持つエンジニアにとってはチャンスの時期です。


AIが実世界に触れ始めている今、ハードウェアをつくれる・操れるスキルはますます価値を増していきます。

だからこそ、今この領域に飛び込んでおくことには、大きな意味があると思います。

この記事の寄稿者

今回は、遠隔操作技術とAIを融合させたロボットの開発で小売・物流業界で革新をもたらしている注目のスタートアップ企業の「Telexistence社」にお伺いさせて頂きました。

なぜ、コンビニロボットに焦点を当てたのか、なぜ「飲料の陳列」にターゲットを絞ったのか、また今後の展望についても詳しくお伺いすることができ、同社の魅力を再確認することができました。

ソフトウェア人材が注目を集める中で今後も最終的には「ハードウェアやものづくり」が不可欠であり、ますます価値が増していくという言葉にとても共感致しました。

また、多様なバックグランドを持つ方々と様々な意見を出し合いながら開発をする環境は、たくさんの新しい気づきと成長を促してくれる環境と実際にお伺いして感じました。今後新しいことにチャレンジしたい方や様々な考えに振れながら新たなものを世の中に生み出したいという方にはまさにぴったりの企業と感じました。記事では記載ができなかった同社の魅力は沢山ございますので、少しでもご興味があればお気軽にお問合せ下さい!

新美 優子
新美 優子

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