第3の柱「半導体」—水まわりのリーディングカンパニーTOTOが技術と協力で築いた新たな成長
日本を代表する住宅設備機器メーカーとして、100年以上にわたり日本の衛生環境の改善をリードしてきたTOTO株式会社(以下、TOTO)。
いま、そのTOTOで新たな成長を担っているのがセラミック事業部です。1984年の事業部立ち上げ以来、静電チャックやAD部材(エアロゾルデポジション法によるセラミック膜を施したセラミック部材)などを展開し、特に主力の静電チャックは半導体市場の拡大を背景に急成長。国内外の住設事業に続く「第3の柱」として進化を続けています。
今回は、同事業部で開発生産性の向上や業務DXを推進する主席技師・鈴木実氏に、半導体事業への挑戦と強み、そしてエンジニアキャリアについて伺いました。
インタビュイー:
TOTO株式会社 セラミック事業部 鈴木実(すずきみのる)様
目次
- 1.「チャレンジと安定の両立」挑戦するエンジニアがTOTOを選んだ理由
- 2. 衛生陶器の技術が半導体へ。長年の挑戦を重ねて育った「第3の柱」
- 3. 強みは高耐久性と解析技術。技術力で信頼を築くTOTOセラミック事業部
- 4. 極端化する半導体市場にDXで挑む。スピード感と「良品と均質」の両立
- 5. 変化の激しい半導体業界で自らキャリアを切り開く。教育体制と協力文化が支える成長環境
- 6. 「協力」を重視し、オープンマインドでチャレンジを支えるセラミック事業部の風土
- 7. 採用で重視するのは「顧客志向」と「長期的な視点での相性」
- 8. 「専門性 × デジタル活用力」 コア技術とデジタルツールを掛け合わせるエンジニアが活躍する
- 9.「工学は世の中をより良くするために」原点を胸に変化の激しい時代への挑戦を楽しむエンジニアと共に
1.「チャレンジと安定の両立」挑戦するエンジニアがTOTOを選んだ理由

——これまでのご経歴を教えてください。
これまでに2回の転職を経験しており、TOTOは3社目となります。1社目は建設機械メーカーで、モーターやインバーターの研究開発に従事しました。2社目ではベンチャー企業の起業に携わり、国の支援も受けながら自律移動ロボットの開発を主導しました。
TOTOに入社して今年で10年目になります。入社当初はセラミック事業部の技術・開発部門に所属しました。その後、セラミック製造拠点である中津工場のスマートファクトリー化に企画段階から参画。自身のテーマとしてはAIを活用した外観検査の自動化などを成功させました。現在は主席技師として、開発生産性の向上や業務DXを推進する役割を担っています。
——転職にあたって、なぜTOTOを選ばれたのですか。
もともと私は、世の中にまだ存在しない新しいものを生み出したり、それをビジネスの軌道に乗せていくことに喜びを感じる性格です。転職を考えていた当時、TOTOが半導体分野で事業拡大を進め、新工場の増設も計画されていることを知り、ぜひその成長に参加したいと思いました。
また、ベンチャー時代は好きなだけ仕事ができて個人的には充実できる反面、家庭との両立に苦労することもありました。TOTOでは腰を据えてメリハリのある働き方ができます。家庭との両立もしやすく、家族が増えたタイミングでワークライフバランスを考える上でも魅力的でした。
チャレンジングな取り組みができる一方で、安定性も得られる。その両方を兼ね備えている点が、私がTOTOを選んだ理由です。
2. 衛生陶器の技術が半導体へ。長年の挑戦を重ねて育った「第3の柱」

——TOTOの成り立ちと、半導体業界に参画した経緯について教えてください。
当社は国産初の腰掛式水洗便器を開発した会社であり、創立者の「衛生陶器を普及させたい」という強い信念から始まりました。製陶技術の研究を重ね、現在では水まわり製品を中心とする住宅設備メーカーとして、国内外で大きなシェアを誇っています。
半導体業界への参画は最近のことだと思われがちですが、実はセラミック事業部は1984年に誕生しました。
衛生陶器の製造で培ったセラミックの制御技術と、水栓金具の精密加工技術を応用し、新たに行き着いたのがファインセラミックス応用製品です。現在は半導体製造に欠かせない静電チャックを主力とし、周辺のファインセラミックス製品も手がけています。
半導体向けのファインセラミックスを事業として軌道に乗せるまでには高いハードルがありましたが、お客様に喜ばれる品質を追求し続け、研究開発への継続的な投資を重ねてきました。こうした挑戦を経て、ここ10年ほどで大きな成長を遂げています。
3. 強みは高耐久性と解析技術。技術力で信頼を築くTOTOセラミック事業部

——セラミック事業部で手がける製品の強みを教えてください。
静電チャックの強みとしてまず挙げられるのは、純度の高いアルミナを用いた高耐久性です。半導体製造装置は非常に精密な機器であり、表面がわずかに削れるだけでも装置が停止してしまいます。そのため、過酷な環境下でも性能を維持できる高耐久性は、お客様の歩留まり向上に直結する強みとなっています。
もう一つは解析技術です。衛生陶器の製造で培った「複雑な形状を具現化する技術」や「流体解析技術」を背景に、お客様のご要望に沿った製品を、ばらつきの少ない品質で提供できる点も大きな強みです。
——半導体業界内でのTOTOの立ち位置は、どのようなものでしょうか。
半導体製造装置にはさまざまな種類があり、それぞれに求められる静電チャックの仕様は微妙に異なります。見た目が似ていても構成要素や技術が違うため、その点で他社と棲み分けができています。
また、お客様からは日々多様な製品開発のご依頼をいただきますが、私たちはいただいたご要望をただ受け止めるだけでなく、提案を重ねながら一緒にものづくりを進めていく姿勢を採っています。こうした提案型の姿勢が可能なのも、技術力や解析力を認めていただき、データに基づいて議論できる土台があるからこそです。
4. 極端化する半導体市場にDXで挑む。スピード感と「良品と均質」の両立

——半導体業界のトレンドについてどのように捉えているか教えてください。
これまで半導体の進化は、微細化と高集積化によって牽引されてきました。この流れは今後も続き、半導体製造装置の視点では極低温や極高温での使用、さらには大電力を扱うハイパワー化など、多様な領域で「極端化」が進むと考えています。
——そういった業界のトレンドを踏まえ、今後の展望についてどのようにお考えでしょうか。
こうした極端化した環境でもお客様のご要望にお応えできる製品を実現することが最も重要です。そのためには、TOTOの社是である「良品と均質」を守りつつ、同時にスピード感を高めることが欠かせません。
具体的には、工場の自動化によって生産スピードを上げるスマートファクトリー化と、人の働き方そのものを効率化する業務DXが鍵となります。私が所属する部署では、デジタルの力で働き方を進化させる取り組みを進めています。その一環として、ワークマネジメントプラットフォームを導入しました。これにより、意思決定の迅速化はもちろん、タスクや進捗が可視化されたことで、チーム全体の業務効率も大きく向上しています。
5. 変化の激しい半導体業界で自らキャリアを切り開く。教育体制と協力文化が支える成長環境

——セラミック事業部で構築できるキャリアについて教えてください。
キャリアの選択肢は幅広いです。
専門領域だけでも材料や化学、機械・電気設計、CAEなど、幅広い科学分野の仕事がありますし、製造技術のプロセスに関わる仕事もあります。
半導体業界は技術進歩が速いので、各領域で新しい技術を取り入れていくことでキャリアの幅を広げていくことができます。
特に自発的に考えられる人なら、自分でキャリアの選択肢を作っていける自由度の高い環境です。
私自身も最初は静電チャックの開発に携わっていましたが、現在は組織の効率化や働き方改善のためのシステム推進など、分野を超えてキャリアを広げています。他にも総合研究所に異動した数年後、またセラミック事業部へ戻ってくる人や、海外で技術営業を経験して開発に戻る人もいて、人材の移動が活発です。
マネジメントではなく技術を極めたい人向けには「スペシャリスト制度」も用意されています。
——エンジニアが新しく入社した際の教育体制やフォロー体制はいかがでしょうか。
新しいメンバーの受け入れ体制も整っています。安全やルールに関する基本教育に加え、毎月テーマを決めた事業部内の勉強会も開催しています。オンラインで自由に参加できるほか、それ以外にも主体的に学べる環境が整っています。
チーム内では新しいメンバーをフォローする文化があります。その人が今できることと、チームとして求めることのギャップを埋めるために、段階を踏んで仕事を任せていくプロセスを、チーム全員で協力してサポートしています。
——他部署との関わり方や仕事の進め方について教えてください。
セラミック事業部では、製品開発からお客様に製品をお届けするまでのプロセスにおいて、関連する他部署と密接に関わりながら仕事を進めています。
特にお客様との窓口である営業部門や、後工程を担う製造部門とは、日常的に密なコミュニケーションを取り合っています。また、品質保証や調達といった関連部門とも連携しながら業務を進めています。
開発部門と製造部門など、立場の違いから意見が衝突することもありますが、問題が起こった際にはすぐ率直に話し合うことを重視しています。意見の相違があっても「お客様に良いものをお届けする」という思いが共有されていれば最終的に目指すところは同じです。
関係者を巻き込み、必要に応じて役職や部門の垣根を超えて協力して解決に導く。この風土は、TOTOの社是である「協力と発展」が根付いているからこそだと感じています。
6. 「協力」を重視し、オープンマインドでチャレンジを支えるセラミック事業部の風土

——セラミック事業部のカルチャーや風土について教えてください。
変化の激しい半導体業界では、新しい技術に挑戦し続けないとお客様から選ばれ続けていくことができません。そのため、セラミック事業部には常に新しいことに挑戦するカルチャーがあり、積極的な投資も行われています。
またお客様との関係が非常に近く、お客様を大事にする姿勢も深く根付いています。ご要望にお応えするだけでなく「もっと良くできるのでは」と提案を重ね、議論を深めながら共に開発を進めています。TOTOの技術力をお客様に認めていただいているからこそ成り立つ関係であり、まさにお客様と一緒に開発させていただいている感覚があります。
——1社目もTOTOと同じ大手製造業だったと伺っています。その1社目の会社と比べて、カルチャーの違いはありましたか。
はい。1社目は、個人の実力や成果を比較的重視する傾向のカルチャーでした。一方、TOTOは「みんなで協力する」ことをより重視していると感じます。コミュニケーションもオープンマインドで、周囲が話を聞いてくれるという安心感があります。
例えば、静電チャックの外観検査を自動化するプロジェクトでは、これまで人の目で見て判断していたものを機械に任せることに対して、当初はお客様だけでなく、社内の関係部門からも抵抗感がありました。しかし、データを示しながら関係者と何度も議論を重ね、そのメリットを粘り強く説明した結果、最終的にはお客様を含む全員にご納得いただき導入が進みました。品質向上と効率化を両立できたことは、大きなやりがいにつながりました。
また、長いプロセスの中では思わぬトラブルに直面し、期待どおりの結果が出ないこともあります。そんな時も「やめるわけにはいかない」と粘り強く取り組み、お客様とはもちろん、社内の関係部門とも何度もやり取りを重ねて解決につなげています。その姿勢を支えているのが、TOTOに根付く「協力」の文化です。
意欲さえあれば挑戦でき、困難な時も周囲が協力してくれる。この風土こそ、TOTOで働く大きな魅力だと実感しています。
7. 採用で重視するのは「顧客志向」と「長期的な視点での相性」

——採用面接で重視しているポイントを教えてください。
私が採用面接を実施させていただくことはございませんので、採用担当に確認したところ、主に2つのポイントを大切にしている、ということでした。
まず、ご本人の価値観と企業理念の親和性です。TOTOには「どうしても親切が第一」「需要家の満足が掴むべき実体」という考えが創立当時から深く根付いていますので、自分本位ではなく「お客様のために自分の立場で何ができるか」を考えられることがTOTOで仕事をしていただく上で非常に重要であると考えているからです。
また、TOTOはチームワークを大切にする会社でもあるため、さまざまな人と協力しながら一つの目標に向かって進める協調性も重要です。
2つ目は、長期的な視点での相性です。TOTOは物事を長い目で捉える企業です。DXの加速をはじめとする市場の変化やスピードに柔軟に対応する姿勢も必要な一方で、同時に長期的に磨いていく技術も大切にしています。そのため、相性が合わないとご本人にとっても、負担になってしまいます。だからこそ「なぜTOTOなのか」という点についてもお互いに齟齬のないように対話させていただいています。
8. 「専門性 × デジタル活用力」 コア技術とデジタルツールを掛け合わせるエンジニアが活躍する
——セラミック事業部ではどのようなエンジニアの方が活躍されていますか。
まず、大前提として、当事業部のコアとなるのは、材料や化学、機械、電気などの専門技術です。これらが事業の基盤であることは揺らぐことがありません。
一方で、近年それらに加えて特に需要が高まっているのが、「デジタル活用力」です。AIの登場はもちろん、高度なCAEツールや大規模なデータ分析、RPAを活用した業務の自動化など、デジタル技術が仕事に与える影響は年を追うごとに大きくなっています。こうした変化を先取りし、自らの専門分野に最新のデジタル技術を取り入れ、仕事の質を進化させていく。その能力がこれからはより求められるようになってくると思います。
今後は、ご自身の特定の専門技術にこうした新しいデジタル技術を組み合わせてシナジーを生み出せるエンジニアがますます活躍すると考えています。広く言えば、「専門技術 × 何か」という“掛け算の強み”を持っている人です。
さらに、新しい技術を楽しみながら前向きに取り組めるマインドセットも欠かせません。常に自らモチベーションを高く保ち、学び続けられるエンジニアこそ、長く活躍できる優れた人材になれると思います。本当にすごいエンジニアは傍から見るととても大変そうなのに、ご本人は苦労している自覚がないなんてこともあるようですよ(笑)。
9.「工学は世の中をより良くするために」原点を胸に変化の激しい時代への挑戦を楽しむエンジニアと共に
——最後に、エンジニアを目指す求職者に向けてのメッセージをお願いします。
エンジニアは技術を通じて社会をより良くし、お客様や仲間の喜びを生み出す仕事です。自分の強みを誰かの喜びに変換し、それがまた自身の喜びとなって返ってくる。この好循環を回せる方は必ず大きく成長できます。
「工学は世の中をより良くするために生まれてきた」という原点を忘れず、変化の激しい時代だからこそ自らモチベーションを生み出し、楽しみながら挑戦できる。そんな原動力を持った方と一緒に働き、共に成長していけることを願っています。
この記事の寄稿者
今回は日本を代表する住宅設備機器メーカーとして、100年以上にわたり日本の衛生環境の改善をリードしてきたTOTO社にご訪問させて頂きました。
私たちの生活になじみ深いTOTO社ですが、新たな成長を担っているセラミック事業部のお話をお伺いし、同社の長年培ってきた技術力とお客様との信頼性、同社の理念が深く根付いた風土に触れて技術者にとって働きやすく、成長できる環境と感じました。
同社でのキャリアなどもスペシャリスト制度などが用意されていたり、”自分でキャリアの選択肢を作っていける自由度の高い環境”と肌で感じることができました。
TOTO社においては、働いている皆さん”お客様のために”という共通した意識をしっかりと持ちながら、期待に応えるためにはどのように自分たちが技術をもって貢献できるかということを真剣に考えながら日々お仕事をされているという点も心に響きました。私も元エンジニアとして勤務をしていたからこそ、エンジニアの方々にとって本当に働きやすく、やりがいをもって働ける環境と感じました。
今回記事ではご紹介ができなかった情報などのもございますので、是非同社に少しでもご興味がございましたらお気軽に弊社にご相談下さい!

- 畑中鴻希