
製造業の品質管理|業務内容や重要性、課題と解決策を解説
本記事では、製造業における品質管理の詳細な業務内容や業務で直面する課題、それに対する具体的な改善策について解説します。
また、品質管理エンジニアの転職についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
製造業における品質管理の重要性

品質管理とは、製品が規定された基準を満たすように検査・調整を行う業務のことです。
「Quality Control(クオリティ・コントロール)」や「QC」とも呼ばれます。
特に製造業において、品質管理は製品の不良率を減らすだけでなく、企業全体の信頼性やブランド価値にも大きく関わるため、非常に重要です。
品質管理が不十分な場合、製品に欠陥が生じやすくなり、これが顧客クレームやリコールにつながります。
リコールが発生すれば、企業は多大な費用を負担するだけでなく、信頼の失墜や売り上げ減少といった深刻なリスクにも直面します。
また、JIS(日本産業規格)やISO(国際規格)といった業界規格を遵守することも、製造業における競争力を維持するうえで欠かせません。
これらの規格は品質を一定水準で保つための指針となり、製品の信頼性確保だけでなく、顧客や取引先からの信頼を得るうえでも重要な役割を果たします。
このように、品質管理は製品の検査や調整業務を通じて、企業の競争力を支える重要な業務です。
製造業の品質管理に求められる業務要素

製品の品質を確保するために欠かせない製造業の品質管理について、具体的な業務内容について解説します。
工程管理・標準化
工程管理では、製造工程を適切に監視・調整し、作業手順の遵守を徹底させることで、製品の品質を維持します。
具体的には、リアルタイムで作業員の稼働状況や作業時間をデータ化し、遅れが発生しやすい工程を改善し、生産スケジュールを調整することで、効率的な生産体制を確保します。
この工程管理においては、検査内容、検査頻度、担当者、品質判定基準、異常時の対応方法などを記載したQC工程表を活用します。
QC工程表は各工程でどのような品質管理を行うべきかを明確化するツールであり、品質維持に欠かせない存在です。
また、工程間で情報共有を行うことで、課題を洗い出し、作業効率の向上につなげられます。
作業手順の標準化(マニュアル化)は非常に重要です。
作業手順や工程が工場や従業員によって異なる場合、不良品が発生する可能性が高まります。
標準化によって、誰が作業を担当しても同じ品質を維持できる仕組みを構築します。
品質検証
品質検証は、製品が所定の品質基準を満たしているか、また機能が正常に発揮されているかを確認するプロセスです。
製造業では各工程で適切な品質検証を行い、不良品が次の工程や市場に流出しないように防止します。
主な検査には、製品や部品の機能を確認する「機能検査」や、外観に不具合がないかを確認する「外観検査」です。
また、通常は製品を傷つけずに検査する「非破壊検査」が行われますが、強度や耐久性を確認する際は「破壊検査」が実施されることもあります。
検査は、受け入れ時・工程内・完成時・出荷時など各段階で行われますが、作業者のスキルや経験によるばらつきを防ぐためにも、検査手順の標準化が大切です。
品質基準の判断にはJIS(日本産業規格)やISO(国際規格)が用いられ、検査結果はデータ化して品質維持に役立てます。
品質改善
品質改善は、製品やサービスの品質向上を目的とし、不良品の再発防止や予防策を講じる業務です。
再発防止の手法としては、品質問題を解決するための「QCストーリー」が活用されます。
QCストーリーは、問題を分析し、原因を追究し、改善策を体系的に実施することで品質向上を図る手法です。
一方、不良品の予防策としては「工程FMEA」が用いられます。
工程FMEAは、製造工程におけるリスク要因を事前に洗い出し、設備・人・材料・作業手順などが原因となり得る故障やトラブルを未然に防ぐ対策を講じるものです。
これにより、不良品の削減はもちろん、製品品質の安定化や生産性の向上も可能になります。
また、品質改善の過程で得られた知見は、生産技術部門や開発部門へフィードバックされ、製造プロセスのさらなる効率化や品質向上に寄与します。
製造業が品質管理で抱える課題

品質管理は製造業における製品の信頼性やブランド価値を維持する上で欠かせません。
しかし、現場では標準化の遅れや人手不足、技術継承の停滞など、さまざまな課題が品質管理の安定性を阻んでいます。
ここでは、製造業が品質管理で直面している代表的な課題について詳しく解説します。
品質が安定しない
品質が安定しない主な原因としては、人的要因、設備的要因、そして材料の質が挙げられます。
製造業には高度な専門知識やスキルが求められますが、熟練作業者の経験や勘に過度に依存している場合、品質が安定しないことがあります。これは、標準化された手順や基準が不足していることが原因です。
また、設備や作業環境の微細な変化も製品品質に大きな影響を与えます。
さらに、使用する材料の品質が一定でない場合も、最終製品の仕上がりに差が出る要因です。
これらの要素が重なることで、品質の低下を招き、企業の信用を損なう恐れがあります。
場合によっては、売り上げ減少やブランドイメージの低下といった深刻なリスクを引き起こす可能性もあります。
作業が属人化している
品質がばらつく原因の一つに、作業の「属人化」が挙げられます。属人化とは、特定の作業が特定の担当者に依存している状態を指します。
作業が高度で複雑になるほど、熟練した知識やスキルが必要となり、特定の担当者に頼らざるを得ないケースが増えます。しかし、担当者がいる場合は問題がなくても、休暇や退職などで不在になると、品質の維持が困難です。また、トラブルへの対応が遅れることもあります。このようなリスクを軽減するためには、作業手順や基準の標準化が必要不可欠です。
人手が不足している
日本では高齢化や少子化の影響で、多くの業界が労働力不足に直面しています。製造業も例外ではなく、人手不足が深刻な課題です。
人手が足りない状況では、一部の作業を特定の担当者に任せざるを得なくなり、結果として属人化が進みます。また、日々の業務に追われることで技術の共有や後輩への指導が難しくなり、会社にとって貴重な技術力が失われるリスクが高まります。人手不足は従業員への負担を増大させ、離職率の上昇にもつながることから、早急な対策が必要です。
DXの導入が進まない
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して製造工程や製品を一元管理し、生産の効率化を図る取り組みです。
単に書類を電子化するだけでなく、機械設備のIoT化や製造工程全体のデジタル化が求められます。
DXを推進により、作業の効率化や人手不足、属人化などの課題の解決可能です。しかし、DXを進めるにはデジタル技術に精通した人材の確保が必要であり、その人材確保が難航する場合があります。また、従業員教育が不十分だと、導入したシステムを十分に活用できないこともあります。加えて、DX推進にあたって 、資金調達の課題に直面する企業も少なくありません。
DXの成功には、専門人材の確保、従業員全体への教育投資、そして資金調達の3つが欠かせない要素です。
製造業の課題解決策

品質のばらつきや属人化といった課題を解決するため製造業の現場では様々な施策が用いられています。
効果的な戦略が必要です。特に注目すべき取り組みは、5Sの徹底、業務の標準化、品質管理エンジニアの採用、そして業務の自動化です。
これらの施策を通じて、生産性の向上と品質改善に向けた具体的な施策の例を紹介します。
5Sの徹底
製造業の課題解決には、まず「5S」を確実に実践することが重要です。
5Sとは、整理・整頓・清掃・清潔・しつけの5つの要素からなる労働環境の改善活動を指します。
・整理:不要な物を取り除き、作業環境を整えること
・整頓:必要な物を使いやすく、効率よく配置すること
・清掃:作業環境を常に清潔に保つこと
・清潔:清掃を維持するための管理や手順を整えること
・しつけ:全員がルールを守り、日々の5S活動を習慣化すること
5Sは単なる職場美化活動と捉えられがちですが、5Sを徹底することでミスや無駄を防ぎ、作業の効率化を目指します。
また、整った労働環境は安全性を高め、業務上のトラブル防止にもつながります。
さらに、5S活動を会社全体で推進することで、従業員同士のコミュニケーションが活性化され、チームワークの向上が期待できます。
その結果、従業員の士気が高まり、生産性向上にも寄与します。
このように、作業環境の改善だけでなく、従業員の意識改革にも効果的なのが5Sの特徴です。
業務の標準化
業務の標準化(マニュアル化)は、人員の配置転換や品質のばらつきを防ぐうえで欠かせません。
特定の担当者が不在になっても作業が滞らないように、作業内容を明文化し、誰でも同じレベルで対応できる仕組みを作ることが重要です。
業務標準化を進める際の例としては、まず現場のヒアリングを通じて業務を洗い出し、それぞれの工数や難易度を数値化します。
そのうえで、品質維持に直結する業務から優先的に標準化を進め、業務フローの再設計や、誰にでも理解しやすいマニュアルの作成へとつなげます。
マニュアル作成後は、実際に運用しながら改善を重ねることが重要です。これにより、より実践しやすい形へと仕上げていきます。
ただし、熟練工の技術や経験に基づく判断が必要な業務については、標準化が難しい場合もあります。
このような場合には、業務を細分化し、標準化可能な部分とそうでない部分を明確に区分することが大切です。
特に標準化が難しい部分については、ベテラン作業者からの技術伝承を重視した取り組みが求められます。
品質管理エンジニア(QAエンジニア)の採用
製品の品質維持・向上には、品質管理エンジニア(QAエンジニア)の採用が非常に効果的です。
品質管理エンジニアとは、品質保証に関する専門知識を持つ人材を指します。
品質管理エンジニアを採用することで、製造工程全体を体系的に管理・分析し、業務の効率化を推進できます。
また、品質に関するデータの分析を通じて、問題の早期発見や再発防止に取り組むほか、他部署との連携を強化しながら、改善策の提案や実行まで担います。さらに、不具合やクレームが発生した際にも、専門的な視点から迅速かつ客観的な対応が可能です。
このように、品質管理エンジニアは品質の安定だけでなく、顧客満足度の向上や企業の信頼性強化にも大きく貢献します。
近年では、製造業における品質管理エンジニアの需要が高まっており、専門知識とスキルを持つ人材の確保は、企業にとって重要な課題のひとつです。
品質管理エンジニアについての詳細、以下の記事で紹介しています。
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業務の自動化
DXの導入により、業務を自動化することで、人手不足などの課題を解消することが可能です。
ただし、全てを一気に導入するのは現実的に難しい場合が多いため、まずはマクロ機能の活用やSaaS管理ツールの導入といった取り組みやすい部分から段階的に進めることをおすすめします。具体的には、以下の方法を活用することで業務の効率化が図れます。
・マクロ機能の活用
Excelなどのマクロ機能を活用し、計算やデータ集計、分析作業を自動化することで、手作業の負担を軽減できます。
・SaaS管理ツールの導入
SaaS管理ツールは、インターネット環境さえあれば場所を問わず利用が可能です。SaaS管理ツールには、クラウド型の勤怠管理や請求書作成ツールから、MES(製造実行システム)やERP(企業資源計画)まで、さまざまな種類があります。
MESは、製造データをリアルタイムで収集・分析し、製造プロセスを最適化するシステムです。
一方、ERPは企業全体の管理を目的としたシステムで、財務データなどを含む多様な情報を統合・管理します。
これにより、データの一元管理が実現し、業務効率の向上が期待されます。
・RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入
RPAを導入することで、在庫管理や注文処理などの定型業務を自動化し、単純作業や繰り返し作業の効率化が可能です。
また、協働ロボットを活用することで、人とロボットが共に作業を行い、製品組み立てなどの作業効率をさらに高められます。
・IoTセンサーやAIの活用
IoTセンサーやAIを活用することで、製品の外観検査や寸法チェックを自動で行い、不良品の早期発見と品質向上を実現します。
また、設備にIoTセンサーを取り付ければ、稼働状況をリアルタイムで監視し、適切なタイミングでのメンテナンスが可能です。
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品質管理エンジニアへの転職を目指す際、自己PRや適切な企業選びに悩む方も多いと思います。
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品質管理エンジニアへの転職事例や、元エンジニアのコンサルタントによる具体的なアドバイスを活用することで、自信を持って転職活動を進めることが可能です!
この記事の寄稿者
製造業における品質管理は、製品の信頼性や企業のブランド価値を維持するうえで極めて重要です。
しかし、現場では品質の不安定さ、作業の属人化、人手不足、DX導入の遅れといった課題に直面しています。
品質管理エンジニアは、専門知識をもとにをこれらの課題を解決し、企業の競争力強化や信頼性向上に大きく貢献しています。
- 山東 史典