制御系と組み込み系のエンジニアの違いとは?仕事内容・スキル・キャリアを解説
転職を考えている方にとって、制御系エンジニアと組み込み系エンジニアの境界線を知ることは、将来のキャリアを左右することにつながります。両者は、責任領域と求められる専門性が異なるため、適性に合った分野を選択することで、ミスマッチを防げます。
自身の市場価値を高めるためにも、それぞれの違いを明確にしておきましょう。
制御系と組み込み系は何が違う?メーカー現場での役割分担

制御系エンジニアと組み込み系エンジニアは、現代の製造業において、工場自動化(FA)やIoTの進化を支える技術職です。
両者の連携が、高性能な製品開発と効率的な生産システムの実現に貢献しています。
制御はシステム寄り、組み込みはソフト寄りの関係
制御系エンジニアは装置や機械の動作を「どう動かすか」という制御システム全体を設計するシステム寄りの役割、一方で組み込み系エンジニアは、その制御ロジックや動作仕様をマイコンやECU上で動くプログラムとして実装するソフト寄りの役割を担います。
自動車の場合を例に挙げると、制御系エンジニアは、「機械がどう動くか」という制御システム全体を考える立場です。
例えば車が加速するとき、どのタイミングでどれだけトルクを出すべきか判断するのは、制御の分野です。
一方で組み込み系エンジニアは、制御系が設計したロジックを実際の電子制御ユニット(ECU)に実装します。
例えばモータECU内部でトルク指令をどのように計算するか、センサー値をどうフィルタ処理して利用するかなど、車を動かすための内部ソフトを作ることが担当領域です。
一人が両方担当するケース・境界が曖昧な現場も多い
制御ロジックは、最終的に組み込みソフト上で動作します。そのため現場では、制御と組み込みの境界が曖昧になっていることも多くあります。そのため「制御エンジニアであっても組み込みコードを読む」「組み込みエンジニアであっても制御ロジックを設計する」といった状況が珍しくありません。
中小メーカーや地方工場の場合、1人のエンジニアが制御+組み込み+電気設計の一部を兼任するケースも多くあり、PLC制御とマイコン制御を同じ担当が担うことも多くあります。
大手メーカーの場合、役割分担の基本構造はあるものの、組み込みエンジニアが制御ロジック実装まで担当し、制御エンジニアがマイコン選定や簡単なドライバ修正を担当するなど、状況に応じて柔軟に業務を分担するケースが多く見受けられます。
ただし、産業装置向けのPLC制御を行う制御エンジニア(FAエンジニア)の場合は、マイコン組み込みとは別領域です。
制御系エンジニアの仕事内容

制御系エンジニアは、装置、ロボット、車載システムなどの「望ましい動作」を実現するため、制御ロジックの設計と調整を行います。
その領域は機械、電気、ソフトを横断するため、システム的な視点が求められます。
主な仕事内容は、制御要件の策定です。ユーザーや顧客からの要求に対し、具体的で実行可能な形式で定義します。
例えば、モータ制御では、以下のような項目を整理します。
・加速時間はどれくらいか
・安全停止はどの条件で行うか
・センサーのどの値をフィードバックに使うか
・どの異常を検知しどう対処するか
これらの項目を整理し、制御シーケンスや状態遷移図として仕様書に落とし込みます。
また、制御アルゴリズムの設計(PID・フィードバック制御など)も制御系エンジニアが担う領域です。
この工程では、要件を具体的な制御方式に変換します。代表的な制御手法は、以下のとおりです。
・PID制御(位置・速度制御で広く利用)
・フィードバック制御
・最適制御(車載やロボティクスで利用されることも)
制御対象の特性に応じて、温度やモータなどの制御方式やアルゴリズムの最適化を行うことが役割です。
また、センサー/アクチュエータの制御ロジック実装も、制御系エンジニアが担います。
湿度や圧力といった制御に使うデータは、すべてセンサーから得られます。
それをどう解釈し、どのような指令をアクチュエータへ出すかを決めるのが制御エンジニアの仕事です。センサー値のフィルタ処理やモータ指令値の算出、トルク、速度、位置の制御など、機械の動作に直結するロジックを作ります。
さらに、試験、チューニング、量産立ち上げも制御系エンジニアが担う領域です。机上で設計したロジックを実機に入れた後、どのように調整するのか考え、センサーの誤差や機構のガタ、摩擦、モータ応答の遅れを見たうえで調整を加え、性能を磨き上げます。
量産フェーズでは、生産ラインの立ち上げサポートも担当します。
組み込み系エンジニアの仕事内容

組み込み系エンジニアは、機械内部に搭載される電子制御ユニット(ECU)やマイコン上で動くソフトウェアを作ります。
ソフトウェア開発の中で、ハードウェアに近い層が担当領域です。
組み込みはPC上のソフトとは異なり、ハードウェアを直接操作します。
例えば、「加速度センサーの値を読み、一定値を超えたらモータ制御タスクへ通知する」といった動作が典型的な組み込み作業です。
マイコン選定やソフト設計も、組み込み系エンジニアの仕事です。装置やシステムの仕様に応じて、必要なCPU性能やメモリ容量、周辺モジュールの種類、動作電圧、通信方式などを考慮し、最適なマイコンを選定するケースもあります。
RTOSを使う場合はタスクの優先度設計や、割り込み構成などを決定します。
ファームウェア開発とデバッグも、組み込み系エンジニアの領域です。主にC/C++でファームウェアを実装し、デバッグを行います。
PCソフトよりもハードに密着しているため、デバッグの難易度は高めです。
実機評価、量産フェーズの調整も組み込み系エンジニアの仕事です。製品に組み込んだ後は、実機での動作確認を行います。
製造業の現場で求められる「確実に動く」ための品質を担保する工程です。
制御系と組み込み系に必要なスキル比較

制御系エンジニアと組み込み系エンジニアは、領域が重なる部分が多い一方で、それぞれに求められる異なる専門知識や得意分野があります。両者に必要なスキルを確認しておきましょう。
制御系に求められるスキル
制御系の場合、「機械を意図したとおりに動かす」ための知識が求められます。
・制御理論
・MATLAB/Simulinkなどのモデリングツール
・C/C++などの基礎的なプログラミングスキル
・センサー、アクチュエータの特性理解
・メカ構造や機構の基礎
例えばモータが「振動する」「目標速度に追従しない」といった問題に対し、制御理論の観点から原因を推測できる力が必要です。
組み込み系に求められるスキル
組み込みは「機械の制御を内部ソフトとして実装する」分野です。そのため、ハード寄りのソフト知識が求められます。
・C/C++
・マイコン、レジスタ、メモリマップの理解
・RTOS
・デバイスドライバの知識
・デジタル回路・通信(UART、SPI、I2C、CAN、Ethernet)
・電気的制約(電圧、ノイズ、発熱)の理解
近年では、IoTやAIの普及により、クラウド連携やエッジAIといった領域にも活躍の場が広がっています。
どちらにも共通するスキル
どちらの分野であっても、共通して求められる土台となるスキルや知識があります。
まず、制御対象や開発環境の前提となるハードウェアの基本理解は不可欠です。その上で、複雑なシステムを設計し、不具合の原因を特定するためには、論理的思考力や、発生した課題を乗り越える問題解決力も必須となります。
特にメーカーでの開発においては、電気、機構、ソフトなど他部門や顧客との仕様調整が多く発生するため、自分の意図を正確に伝え、相手の要求を理解するコミュニケーション能力が非常に重視されることも珍しくありません。
また、最新技術の動向調査や海外との連携に備えて、英語力もエンジニアとしての活躍の幅を広げる上で重要な要素となります。
制御系・組み込み系エンジニアのキャリアパス

制御系エンジニアと組み込み系エンジニアは、メーカーのモノづくりにおいて不可欠な存在です。
経験を重ねることで、その知識とスキルを活かした幅広いキャリアパスが開かれます。
共通の基礎知識を基盤としつつも、専門性の違いに応じて、そのキャリアは多様な方向へ分岐していく傾向があります。
制御系から広がるキャリア
制御系エンジニアは「機械をどう動かすか」を設計するため、機械、電気、ソフトのクロス領域を理解しているのが特徴です。
特にロボティクスの分野に進む場合は、制御系エンジニアとして培った幅広い知識が強力な土台となります。
ロボティクスエンジニアは、産業用ロボット、協働ロボット、搬送ロボットなどの動作制御に携わるキャリアです。
制御アルゴリズムやセンサー融合の知識を活かしてキャリアパスを広げられます。
また、車載制御エンジニアは、EV、ADAS、自動運転領域などでの制御ロジック開発する職種です。
特に制御モデルベース開発(MBD)経験があるエンジニアは重宝されやすい傾向にあります。
PLC制御、産業ロボット、搬送システムといった設備制御のキャリアへ進む選択肢もあります。
さらに、制御の仕組みを理解しているため、制御システムの安全性評価、故障解析など、品質保証へのキャリアパスも開かれています。
組み込み系から広がるキャリア
マイコンやハードウェアに近いソフトを扱う組み込み系エンジニアは、幅広いキャリアを構築できます。
例えばIoTエンジニアは、デバイス側の開発に加え、クラウド連携、通信プロトコルの開発へステップアップとして選ばれるキャリアです。近年では、「エッジ×クラウド」の設計ができる人材の需要が拡大しています。
安全性と信頼性を担保するアーキテクチャ設計に強いため、ソフトウェアアーキテクトへ進むのも選択肢のひとつです。
ソフトウェアアーキテクトでは、RTOS構成、タスク設計、システム全体のアーキテクチャを設計します。
ハード制約を踏まえた設計力が求められます。
また、車載ECU開発エンジニアら、AUTOSAR、CAN通信、モデルベース開発などを用いてECU開発を担当します。
車載は今後も継続した需要が続く分野です。
さらに、メカ、電気、通信、ソフトを横断する視点を持つことで、製品企画側へキャリアチェンジするエンジニアもいます。
制御系・組み込み系エンジニアの将来性

制御系エンジニアと組み込み系エンジニアの技術は、製造業の枠を超え、社会全体のデジタル化(DX)を支える技術基盤です。
自動化・DXが進む製造業で求人数が増えている理由
製造業DXが加速する現在では、ロボット、FA機器、センサーなど、ハード+ソフトの連携が密接になっています。
例えば産業ロボットの高精度制御では、「制御ロジック+組み込みソフト」が必須であり、両職種の需要が高まっています。
DXが進むほど、機械単体ではなく、ひとつの製造ライン全体がデータや動作で密接に連携・統合されていることが重要です。
システムの構築が高度に複雑化するため、それを設計し、実現できるエンジニアの需要は今後も拡大すると見られています。
車載ECUの増加やEV化で需要が拡大
車載分野は、制御・組み込みの双方で特に成長が著しい領域です。
EV、自動運転、コネクテッド化の進展により、1台あたりのECU数が増加したり、車載ソフトウェアの行数が急増したりしています。
また、バッテリーマネジメントシステムやモータ制御が高度化しているのも大きな特徴です。
こうした背景から、車載制御エンジニアと車載組み込みエンジニアの双方のニーズが高まっています。
IoT普及で組み込み市場が急拡大
IoTの普及により、世の中のあらゆる機器がネットワークに接続されるようになりました。スマート家電やスマート工場(産業IoT)、スマートシティ、ウェアラブルデバイスなどは、すべて「小型デバイス側の組み込みソフト+クラウド側の処理」の組み合わせで実現します。
組み込みエンジニアの役割は「デバイス開発」に留まらず、さまざまな領域に広がっています。
どんな人が制御系・組み込み系に向いている?
制御系と組み込み系は、どちらもものづくりの根幹を支える重要な職種です。両方の特徴に合わせて向いているタイプを紹介します。
制御系に向いているタイプ
制御系に向いているのは、機械の動作原理を理解し、それをどう動かすかを考えるのが好きな人は向いている傾向があると言えるでしょう。具体的には以下のような例が挙げられます。
・数理的思考が好き(制御理論、フィードバックの理解など)
・シミュレーションやモデル化に興味がある
・装置を安定させる調整、チューニング作業が好き
・センサー値を見ながら原因分析するのが得意
・機械の動きや挙動を観察するのが好き
組み込み系に向いているタイプ
組み込み系エンジニアは、ハードウェア寄りのソフトを扱うため、機械の内側で動くロジックや、マイコンの最も近い場所でシステムを構築することに魅力を感じる人が向いている傾向があると言えるでしょう。具体的には、以下のような例が挙げられます。
・ハードウェアに密接した技術が好き(レジスタ、割り込み、メモリ管理など)
・電子工作、基板、マイコンに興味がある
・コツコツとデバッグすることが苦にならない
・動作の原因を1行ずつコードで追うことが好き
・仕組みを深堀りして理解するのが得意
制御系と組み込み系のよくある質問(Q&A)

制御系と組み込み系は混同されがちな領域です。よく寄せられる疑問について、まとめて回答します。
制御系は電気系?ソフト系?どっち?
制御系は「電気系とソフト系の中間」のような立ち位置ですが、実際には企業や部署によって扱いが異なります。
電気系出身が多い企業であれば、センサーや回路理解の比重が大きくなります。
一方で機械系出身が多い企業では、機構や負荷理解が重要です。情報系出身が増えている企業は、MBDやソフト寄りの制御を重視する傾向があります。つまり、どちらの要素も持つ「システム寄りの技術職」というのが実態です。
組み込みはITエンジニアと何が違う?
組み込みと、例えばWeb/業務系などのITエンジニアだと、開発する対象が大きく異なります。
組み込み系エンジニアは、ハードに密着したものづくりに関わる職種です。
一方でITエンジニアは、PC、クラウド上で動くものを対象としています。
ただし、C/C++、Linux、通信プロトコルなどの共通する点もあり、IoT時代には両者の境界が近づきつつあります。
組み込みシステムエンジニアの転職成功事例

<派遣会社で車載向け組み込みソフトを担当から、大手自動車サプライヤーの正社員へ>
33歳・現年収580万円 → 710万円へ年収アップ
派遣会社にて自動車向けECUの組み込みソフト開発を担当されていた方です。
大手自動車サプライヤーの正社員エンジニアとして、年収は約130万円アップで転職された事例です。
<SIerで車載向け組込みソフトを担当から、防衛製品メーカーのシステム開発エンジニアへ>
38歳・現年収740万円 → 890万円へ年収アップ
SIerで車載向け組み込みソフトの開発を担当されていた方です。
防衛製品メーカーのシステム開発エンジニアとして年収も約150万円アップで転職されました。
エージェントからのアドバイス
制御系エンジニア・組み込みエンジニアの転職市場は、現在も強い採用ニーズが続いています。
特に自動車業界では、自動運転、電装化、EV化の進展によりSDV化が一気に加速しており、ソフト開発案件は非常に豊富です。
また、防衛宇宙分野も国策に紐づいて大幅に拡大しており、今後も採用が活発な状況が続くと予想されます。
こうした環境の中で評価されているのは、「自身でコーディングまで手掛けた経験」を有する方です。
業務としては指示とチェックが中心だった場合でも、経験面ではソフト品質を軸に即戦力性を求められるケースが増加しています。
特にマイコンを用いた組込みソフト開発経験は必須とされる場面が多く、センシングやAIに関わる技術、無線通信に関する技術を有している方は高い評価を受けています。また、プロジェクトをリーディングする力が重視されており、技術力と同じくらいやコミュニケーション力など人物的な部分も評価ポイントになっています。
他業界からの転職成功例も増えており、車載業界の経験者はメーカーのみならずSierへキャリアを広げるケースも多く見られます。
無線通信を伴う組込み経験を持つ方は、業界を問わず引く手あまたの状況です。
特に、複数のシステムを俯瞰しながらアーキテクトできる志向があるかどうかは、面接で企業が注視するポイントとなってています。
転職活動が進めやすい層としては、複数のシステムを統合しながら開発を行ってきたアーキテクト経験者や、プロジェクトマネージャーとしてのキャリアを有する方が挙げられます。AIと絡む開発、無線通信を伴う開発、センシング技術を用いたIoT化の開発も市場で強く求められており、比較的活動を進めやすい傾向にあります。
今後を見据えると、まずは「実務力としてきちんとコーディングまで抑えていること」が重要です。
経験5年以上の方であれば、コア技術に加えて通信、AI、IoTといった領域への知見を広げるか、プロジェクトリーダー・プロジェクトマネージャー・アーキテクトといった立ち位置へ進んでいくことが求められます。
自動車業界では自動運転やAI導入が進む中で、システムの冗長化技術(一部冗長化を含む)や、AIとクラウドではデータ容量オーバーを想定したエッジAI技術などの習得も重要になっていきます。
市場環境が追い風となっている今、ご自身の経験の棚卸しを行い、次に広げたい領域や挑戦したい技術を整理していただくことをおすすめします。必要なスキルやキャリアの方向性が明確になれば、より適した転職先に出会いやすくなりますので、ぜひ前向きに選択肢を広げてみてください。
この記事の寄稿者
制御系と組み込み系エンジニアは、どちらも「機械を動かす仕組み」を担う技術職です。
しかし、役割には明確な違いがあります。
製造業DXなどの追い風により、どちらの職種も将来性が高く、キャリアパスも豊富です。
機械を意図したとおりに動かしたいのか、それともハードに近い層でソフト開発したいのかによって選択が変わります。

- 植村元輝